記述が古い箇所がございます。本記事は、2013年に書かれたレビューを転載したものです。時間がとれ次第、最新の情報を反映しようと考えておりますが、現時点では追いついていません。予め、ご了承ください。
OPUSは、アメリカ合衆国のTransparent Audio社の製造・販売するインターコネクトケーブル。初代にあたるOPUS MMが販売開始されたのは2000年前後であり、他のスーパーハイエンドケーブルと比べても長い歴史をもつケーブルなのだが、XLRケーブルなら2,480,000円/mとあまりに高価であったためか、特に国内では語られる機会が少なかった。しかし、このケーブルが他社、もっと言えばケーブル界そのものに与えた影響は計り知れず、2013年現在の各社旗艦モデルの高性能化・高汎用性化の潮流を見る限り、やっと各メーカーが設計思想・技術の両側面においてTRANSPARENTの背中が見えるところまできたのではないか、と感じている。
TRANSPARENTのXLRケーブルは、上はOPUSから下はREFERENCEに至るまで、細身の線体にコックピット2発という基本構造で一貫しているが、このOPUSにあっては、第一にコックピット部がドライカーボン製である点、第二に線体はREFERENCE MM2と共に、REFERENCE XL以下のモデルよりも1回り太いものに設定されている点、そして第三にプラグ部が専用設計されている点(REF. MM2およびREF. XL DIGITALにも搭載されている)について、主に下位ラインとは外見を異にしている。何だかんだ言っても、OPUSの最大の特徴はそのカーボンコクピットであろうし、OPUSの象徴と言えよう。
取り回しについては、導体そのものの太さはかなりのものであるため、曲げや捩りには苦労するが、NBS BLACK LABELのような凶悪な取り回しの悪さは感じない。ただ、カーボンコックピット部は、その高級感もあいまって、傷を付けまいと気を遣う。まぁ、本来であればマイナス要素なのであろうが、一方では所有感の裏返しでもあるので、個人的にはあまり悪い気はしていない。この点は、偏見だと思っていただければ幸い。
CableFanでトップクラスのケーブルとして紹介しているPRIME XLR(Jorma Design)やGryphon(Stage III Concepts)、Sakra(STEALTH)あるいはSeraphim(ZenSati)などと比べても、桁違いの実力を有している。
まず、手短に説明できる3点:
S/N比(聴感)
情報をコントロールする力
音の分離
について。これら3要素に関して、OPUSは筆者の知る全てのケーブルの追随を許さない(2025年追記:後にMIT ORACLE MA-X SHDを導入したことでこの考えは変わった)。CableFanでは、例えば聴感S/Nに優れるケーブルとしてPRIME XLRを、情報コントロール力と音の分離感に優れるケーブルとしてはGryphonを紹介しているが、残念ながらその何れも、OPUSと勝負になるレベルにはない。OPUSの織りなすサウンドステージは、最高クラスの広さ、最高クラスの濃密さ、そして最高の見晴らし・透明感が鼎立されている。残念ながら、PRIME XLRやGryphonに、それだけのポテンシャルは無いであろう。
次に、情報の量感に関して。TRANSPARENTのケーブルに共通することだが、このOPUSにおいても情報量の誇示・顕示は控えめで、一聴しただけであればSakra(STEATLH)やSeraphim(ZenSati)の方が情報量は多めだと感じられた。しかし、少し聴き込めば、全帯域にわたる聴感解像度の高さと、必要な音を過不足なく拾い上げるきめの細かさを体感でき、その情報量はSakraやSeraphimに全く劣るものではないことが分かる。要は、異なるのは音の質感でSakraやSeraphimの方が粒子感のあるさらさらとした音を出す分、パッと聴きではきめが細かく聴こえるということだろう。OPUSはあくまで、そのような美音系の演出は控えめに、1つ1つの音像をはっきりと、丁寧に描く。
周波数レンジの広さに関しては、PRIME XLRと互角か、最低域の情報量などについてはややOPUS優位と感じられる。ただ、その差は僅少。帯域バランスにしても、PRIME XLRの方が全体的に細身で硬い音ではあるものの、どちらも全体域にわたって音の厚みはほぼ均質、尚且つ最高域から最低域まで殆ど萎まない。このあたりは、超低域~最低域がやや薄くなりがちなSeraphimや、高域・低域は強大な反面、中域の存在感に乏しいGryphonなどと比較して、OPUSやPRIMEが優れている点であろう。補足だが、TRANSPARENTのハイエンドというと低音は分厚いが高音は弱いピラミッド型だという評判を聞くが、筆者も同社のReferenceやReference XLにおいては一理あると感じている。しかし、このパターンはOPUSにおいてはむしろ当てはまらず、そのような前評判を信用すれば、予想外の高~中域の濃密さと低域の深さによって空間を支配されるリスクがある。
正直、このクラスのケーブルを用いて尚、ダイナミックレンジに不満が残る方は、機器類を買い替えるなり、買い足すなりした方がよいだろう。現在のケーブル界でこのレベルを明確に超えられるものを探しても、徒労に終わる可能性は高い。
最後に汎用性についてだが、これは現時点でも分かりかねているため、保留する。高性能・ハイバランスであり、通常の観点から考えれば間違いなく汎用性は高いのだが、他に類をみない格の高さが故であろうか、逆にSPやコンポに対して高圧的な面もあるため、もう少し見極める必要があると思っている。
総括すると、TRANSPARENT OPUSは間違いなくこの15年あまりにわたって世界の頂点に君臨し、またケーブル界を牽引するだけの性能とバランスの良さを兼ね備えた、まさに歴史的傑作である。
それぞれの評価項目の定義についてはこちらを参照。
OPUSはニュートラル系・ニュートラル型のケーブル(つまり、音像・音場あるいは暖色・寒色の観点からみて中庸)。とはいっても、音場表現力・音像表現力のいずれについても、その道のエキスパート、例えば音場型であればSakra(STEALTH)、音像型であればGryphon(Stage III Concepts)など、に劣らないばかりか、はっきり言えば凌駕してしまうため、単に中庸なわけではなく、より高次元でハイバランスな上位種として評したい。特に音場表現に関しては、広がりこそSeraphim(ZenSati)あたりには劣るが、ステージの透明感、立体的な音像の配置と定位などを背景に、総合的なサウンドステージの完成度について他の追随を許さない。
強いて言うならば、音色が明暗の次元でややダーク。銅導体を使用しているため銀ケーブルにあるような温度感の低さは認められないが、音像に艶や色気を持たせるとか、美音系の演出で音を明るくするとか、そういった飾り気が全くと言ってよいほど無い。何事にも揺るがない大河のような安定感が際立ち(ピラミッド型という意味ではない)、軽やかさや幼さといった要素は認められない。そのため、AKB48に代表されるような昨今の若手女性歌手のヴォーカルものなどを楽しく聴きたい場合には、PRIME XLR(Jorma Design)やArmonico(Fono Acoustica)などを併用することでカバーした方がよい。逆に大編成のクラシックやジャズにおいては、奏者が増えれば増えるほど力を発揮し、特にフルオーケストラやビッグバンドジャズの再現力は隔絶している。また、S/N比(聴感)が抜群であり、古い音源であってもリアルに出してくる点は驚き。さらに付け加えるなら、アコースティック、特にクラシックやジャズに用いられる各種楽器のリアリティは別格で、弦の張り・伸び・キレのバランス、ピアノのしなやかさと透明度、笛の生命感と空気感、ベースにおける重みと弾力の両立、あるいはシンバルの明瞭さや粒立ち、等々、他の追随を許さない(※1)。その純度たるや、Seraphimですら音像のブレ・ぼやけを感じさせ、またPRIME XLRですら色付けを感じさせるほど。
※1強いて言うならば、シンバルなどの明瞭さについてはGryphonもOPUS並の表現力を誇ると思われる。
以前、PRIME XLR(Jorma Design)のレビューに際して「世界で勝負できる基本性能」というタイトルを冠し、その意図を長々と説明したことがある。今回はそのスタイルを継承しつつ、レビューのバロメーターとしては、性能面に加え、性能について非顕示的であるということをも考慮した「完成度」という観点を用いたい。
何本ものケーブルを使ってきて強く感じることだが、音作りにおいては目立つ要素とそうではない要素がある。そして、先に筆者の結論を言ってしまうと、派手さを抑え、地味な要素で勝負できているケーブルであればあるほど、性能も「完成度」も高い傾向が認められる。
おそらく、音作りにおいて最も目立つ行為は個性の顕示、たとえば脚色・色付けや特定帯域のブーストなどだと思われ、大半のケーブルは如何にこれをうまくやるかという観点から設計されているだろう。特に、性能面で限界がある場合は、個性を際立たせなければ市場で生き残れない。例えば、Indra(STEALTH)、VALHALLA(NORDOST)、あるいはBLACK LABEL(NBS)の音は、それが原音に忠実であるかはともかくとして、その個性は唯一無二と言えるものであり、ゆえに多くのファンによって受け入れられ、市場における一定の地位を築いている。これは、個性によって成功した典型例だろう。ただ、これは原音忠実性を放棄し、ケーブルの「完成度」を下げるスタンスであり、問題か問題でないか?といえば、やはり問題だったのではないだろうか。
筆者は、この問題に対するデザイナー側からの回答のひとつが、2000年代後半以降ハイエンドメーカーが相次いで発表した性能重視・個性軽視、すなわち「完成度」の高いフラッグシップモデルだったのではないかと考えている。たとえば、Indraの製造販売元であるSTEALTHは、ニュートラル路線に回帰し、新たにSakraというフラッグシップモデルを発売したし、似たような話は、ODINを発売したNORDOSTや、BLACK LABEL IIIを発売したNBSについても言えるだろう。これらの新型については、S/N比やダイナミックレンジなどの性能面では旧フラッグシップと比べて遥かに高い評価を獲得していると同時に、「音作りが無個性でつまらなくなった」といった感想を耳にすることも多い。これはつまり、地力をつけた各メーカーがより目立たない要素で、すなわち性能面で勝負するようになってきたということではないだろうか?
話を進めると、ケーブルの性能はいくつかの観点から考察できる。筆者のサイトでは、S/N比(聴感)、帯域バランス、情報量、等々の要素からそれを説明しているが、更に言うならこれらの要素についても目立つ要素とそうでない要素がある。具体的には、情報量(音像の聴感解像度、一聴しての音の数)は最も目立つと感じられ、次いで周波数レンジの広さと音の分離が認識しやすい。逆に、聴感S/Nや情報コントロールというのはかなり地味な要素であり、特にハイエンドケーブル間の比較では、一聴しただけでその良さが分かることは稀である。そして現状、個性ではなく性能で勝負できているケーブル(トップブランドの旗艦クラス)ですら、何だかんだいっても目立つ要素を強化し、強調しようとする傾向が強い。結局はこれも個性の問題同様、分かりやすい形でケーブルの長所をアピールしなければ生き残れないという、市場の原理によるところが大きいのであろう。例えばORIGO(Jorma Design)の場合、聴感解像度、ワイドな周波数レンジ、あるいは帯域バランスの良さはかなり前面に出てきており、凄いのは分かるし声や楽器の良さも堪能できるのだが、少々勢いが付きすぎというか、もう少し余裕をもてないものかと思ってしまう。あるいはSakra(STEALTH )やSeraphim(ZenSati)の場合、情報量全般について驚くべきレベルにあるが、音像のソリッドネスや定位が追いつかず、もう少しきちんと情報を整理して出せないものかと感じる(もっとも、それらを個性として前向きに解釈するならば、話は変わってくるのだが)。総じて言うなら、目立とうと欲が出た分だけバランスが悪くなり「完成度」は下がっている印象だ。
ここからが本題だが、OPUSは、それ自体が極めて優れる情報量や周波数レンジの広さすら前面には出さず、むしろ聴感S/Nや情報をコントロールする力といった目立たない要素についての高い実力を積極的に前に出してくるケーブルである。加えて言うなら、それすら地味な形でやっている。似たような傾向のケーブルとしてGryphon(Stage III Concepts)があるが、あちらは一音一音をあまりに強くコントロールしているため、結果として声や楽器が本来備える甘みや伸びやかさが犠牲になりがちである。その点、OPUSは更に進んで、声や楽器のもつ質感、音色、あるいは広がりといったものを可能な限り犠牲にせず、同時に音像の定位感や陰陽コントラストについてはGryphonと同等の水準を実現している。総じて、OPUSは、当代最高峰の基本性能と、それすら覆い隠す最高峰の地味さをもって、音源それ自体の魅力を最大限に引き立てるべく立ち回る。これは、本当の意味で基本性能が高く、尚且つ、それに奢らず原音を尊重する余裕がなければなし得ない芸当だろう。
まぁ、半ば錯覚だという自覚はあるし、これだけ非科学的かつ非芸術的な駄ポエムを書いている手前こんなことは言いたくないが、ケーブルの存在がほとんど感じられないという感覚を体験している。上で、OPUSのアコースティック再生の魅力について触れたが、そこに楽器があるようだとまでは言わないものの、OPUSを使用すると声・楽器あるいはステージ全体がもつ質感の純度が高まる印象を確かに受ける。
以上のように、世界を牽引するだけの「完成度」を誇るOPUSであるが、実際にその力を十全に引き出すとなると、これは一筋縄ではいかないように思われる。
前述の通りOPUSは、音を楽しいものにするような脚色や遊びを排したケーブルであり、良くも悪くも誤摩化しを許さない。誤解を覚悟で言うならば「すごい音」は出しても「楽しい音」は出さない。加えてこのケーブル、声や楽器の音色や質感を尊重する気はあっても、オーディオシステムを尊重する気はあまり無いように思われる。というか、あるシステムがOPUS同様、原音を尊重し、それを再現しようという方向性のものであってはじめて、そのシステムと手を組んで本当の高みを目指そうとする、そんなスタンスのケーブルに思える。もちろん、脚色の方向性を間違うというのはオーディオにおいて悲惨な結果を招くが、徹底的に脚色(≒ごまかし)を排したがるというのも、なかなかに難儀なものだ。
ポジションは選ばない。あるとすれば好みの問題だと思うので、実際にシステムに組み込んでみた上で判断するのが迅速かつ確実だと思われる。
ODIN(NORDOST)
VALHALLA(NORDOST)
PRIME XLR(Jorma Design)
Gryphon(Stage III Concepts)
Sakra(STEALTH)
Seraphim(ZenSati)
Reference XL(TRANSPARENT)
他