記述が古い箇所がございます。本記事は、2015年に書かれたレビューを転載したものです。時間がとれ次第、最新の情報を反映しようと考えておりますが、現時点では追いついていません。予め、ご了承ください。
MEXCEL電源ケーブルは、ESOTERICの販売していた電源ケーブル(フラグシップ)。元々は8000番台だった当社のフラッグシップだが、9000番台になって以降はMEXCELとの呼称も冠するようになったらしい(「D.U.C.C. Stressfree 7NCu MEXCEL導体」なる導体を用いているとのこと)。尚、今回は7N-PC9500をメインとしつつ、時折7N-PC9100についても言及しながらレビューしてゆく。
かつてMEXCEL電源ケーブルは、AETのフラッグシップであるEVIDENCEと並び、数ある国産の電源ケーブルの中でも最高峰の存在として語られてきた。ライバル的存在としては上述のEVIDENCEの他、マニアの間では絶大な支持を得ているアレグロ電源ケーブル、TRANSPARENTのフラッグシップであるPLMM2Xなど。
現行の7N-PC9900は未所有だが、9100、9300(試聴のみ)、9500という私なりの変遷に基づいて述べてみるに
9100→9300では性能以上に個性の変化が大きいと思っている。
この辺りは上奉書屋さまのページに詳しく、氏の言葉を拝借するならば「大人っぽい音」になった。私なりの見解を加えるなら、9100にあった真っ直ぐで裏表のない元気のよさをベースとしつつ、奥深さや陰影も同時に感じさせる仕様になったと感じた。
9300→9500では性格よりも性能について、大きな変化があったように思う。
9300以前のMEXCELは、たとえばアレグロなどと聴き比べると貧弱な部分が目立っていた。対応できるジャンルの幅もそうであるし(特にパワーアンプ駆動時の)低音域の深さや解像感にも不安があった。しかし9500に至り、ベースとなる鮮烈で勢いのある個性はそのままに、上述した弱点のかなりの部分が克服されたと感じている。
両サイドのカーボンプラグが特徴的な外見。特に7N-PC9500のプラグは、世界的にみても相当にしっかりとした部類のプラグであり(画像)、作りのよさが伺える。シールドは、ESOTERIC・ACROLINK仕様ともいうべきもので、メッシュの上にゴムチューブのような素材を被せたもの。
現時点では、MEXCELは国内の電源環境を意識したモデルであり、海外の電源ケーブルとダイレクトに比較してスコアを付けるのは気が進まないので、今回は国内にもディーラーを有するPLMM2X(TRANSPARENT)、アレグロ、ODIN(Nordost)あたりを主な比較対象とし、レビューしたい。
また、いちおうだが筆者のポエムを図示したものも掲載しておく:
それぞれの評価項目の定義についてはこちらを参照。
どちらも、日本人のデザイナーによって設計・開発された電源ケーブルであり、日本の電源環境における最高峰として認識されているケーブルたちと言える。
同じ銅線でありながら、両者のキャラクターはだいぶ異なっている。9500は鮮度感を、アレグロは温度感を前面に出してくる印象だ。別の言い方をするなら、9500の方が瑞々しく鮮烈、アレグロの方が濃厚で芳醇と言えるやも知れない。少し大げさなたとえやもしれないが、セリーヌ・ディオンが30を迎える直前の名曲「My Heart Will Go On」を聴き比べてみると、9500では25歳ほどに、またアレグロでは35歳ほどに感じられる印象だ。聴感上の周波数レンジと帯域間のバランスについては、両者互角の印象。9100や9300の段階ではMEXCELが後塵を拝していた印象だが、9500に至って相当に強化された印象。したたかになった、と言ってもよいだろう。情報の量感は、9500が上。まさに蛇口を全開にしているような音の出し方。逆に、音の分離感や定位感など、情報のコントロールという観点からするならば、アレグロの方がしたたかだといえる。
総じて、9500は主に情報の量感について劇的な改善をもたらす一方、ポジショニングを誤ると音が鮮烈になり過ぎ、コントロールも効きにくくなるリスクもある。そんなわけで、筆者はMEXCELについては一貫してトランスポートへの使用を勧めている(下流に入れるより、個性を抑えつつ上手く性能を引き出せるため)。対して、アレグロについてはどこに入れてもバランスを保つが、強いて言えばパワーアンプへの使用を推奨したい。アレグロでパワーアンプを駆動した際の音の安定感・信頼感は際立っている。特に、大口径ウーファー駆動時の音のなめらかさは絶品。
これまた、全く異なる個性をもった2つのケーブルだと言えるだろう。もっと言えば、対極的な印象の2本といってもよい。
一言で述べれば、9500はどこまでも開放的な出音で、PLMM2Xはどこまでも行き届いている出音。上で、アレグロの情報コントロール力を賞賛したが、PLMM2Xにおいてはこの点が更に徹底されている。冷徹と言ってもよいだろう。特に、PLMM2Xのノイズ対策はすばらしい。電源ケーブル界全体を見渡しても屈指の聴感S/Nの良さを誇り、音像の分離・定位も大きく改善される印象だ。
しかしながら、この徹底した情報コントロール力は、時として音楽の勢いや鮮度感を奪ってしまう。有り体にいえば「出音が大人しくなりすぎるんじゃないの?」といった感想を抱かせる(このあたりは同社のOPUSブランドからは感じないものであり、PLMM2Xといえども価格相応な面もあるのだなぁと思わされる部分でもある)。そんな時は、7N-PC9500を導入すれば問題は一瞬で解決だ。一聴して、蛇口を全開にしたかのような勢いが感じられることだろう。尚、これは音の温度感の問題とは異なるので、その点は注意していただきたい。実際、PLMM2Xと9500で音の温度感は大差ないし、ホットなサウンドを目指すならアレグロの方が適任である。
(写真は撮り忘れ)
TRANSPARENTと双璧をなすケーブル界の雄・NORDOSTのフラッグシップ(元)と、7N-PC9500の比較。前提として、性能・価格共にあまりに違うので、フェアな比較と言い難いことは認める。1.25mで160万円もするODINと比較すれば大抵のケーブルは辛口な評価になるし、ODINに劣っているからといって、7N-PC9500の出来が悪いというわけでは全くない。また、全ての意見は当然ながら筆者の主観であるから、その点はご了承いただきたい。
世界でも最も完成された電源ケーブルの1つであるODINと比較することで、7N-PC9500に足りない部分がみえてくる。それはスピードと音場展開力だ。ODINの方が圧倒的に速いし、広い。特にサウンドステージの広がりについては、ESOTERICが捉えるべき世界のトレンドでもあると言えよう。NORDOSTのみならず、TRAPSNARENT、MIT、ZenSati、Stage III Conceptsといった世界のトップブランドは何れも、サウンドステージを押し広げることでシステムにスケール感を付与してくる。一聴しての広がりをさほど強くは感じさせないJorma DesignやCrystal Cableのケーブルも、よく聴くと前後感は相当に出しており、容積的には相当なものだ。しかもこれらのブランドでは、下位ラインにおいてもサウンドステージの広がりが優先されている。私なりの推察をすると、たとえばこの20年ほどでAVALONやWILSONあたりからYGやMAGICO等へと至った「強大なドライブ力と優れたS/Nを備えた石アンプの存在を前提に、スケール感と精緻さを高次元で両立するサウンドステージの追求」というトレンドが世界的にメジャーになってきていることも、無関係ではないだろう。これらのSPは、ことステージ展開に関しては追い込めば追い込むほど音が良くなる印象を受けるので、ケーブルもそちらを強化する方向にトレンドが移りつつあるのではないかと思っている(事実、Nordost OdinやZenSati Seraphimは、低音やS/Nが貧弱なシステムに入れたとしてもその部分はあまり補強してくれない)。話がだいぶ逸れてしまったが、MEXCEL電源ケーブルが世界的に飛躍するにあたって次に求められるのは、今ある音像の存在感を保ちつつ、サウンドステージをも押し広げてゆくことだと筆者は考えている。
逆に、情報の量感や音の迫力では良い勝負をしている。MEXCELのお家芸たる「洪水の如き情報量」は9500においても健在だ。ひとつひとつの細部をみてゆけばさすがにODINの表現力が勝るかもしれないが、一聴しての情報量では9500も負けてはいない。但し、ODINの方が個々の情報をコントロールする力が強いことと、ステージの奥行きと迫力を両立できていることから、音のクオリティ感では上をゆく。
情報のコントロールについては、優れた音の分離感・定位感に加え、ODINは上から下まで超ハイスピードで、特定の帯域がもたつくというケースがほぼ皆無である(ゆえに、スピード・リズム的な意味でのサウンドの一体感は素晴らしい)。あくまでODINとの比較においてだが、9500は特定の帯域をもたつかせる場合が多い(特に低音域)。日本国内は銅線メインの環境であるから、このあたりのもたつきは目立っていないが、世界に出れば必然的に他社の銀線や銀銅線と競合することになるので、スピード感の問題が浮き彫りになる可能性は高い(同様の例だが、国内で高い評価を得ているJORMA PRIMEは、国際的には苦戦している)。MEXCELが本格的に世界進出を果たすにあたっては、銀を用いたアプローチによってスピード感を高めることは有意義と言えよう。
上述したように、MEXCEL電源ケーブルは7N-PC9500に至り、その完成度をさらに高めた。このペースでゆけば、7N-PC9900あたりが出る頃には国内では敵なしという状況になる気がしている(追記:競合が手強く、そうはならなかった)。そして、それだけのポテンシャルがあるのだから、本格的に世界を目指してみてはどうかとも思う。